「冬香さんと僕。」#17
なんだか急に閲覧数が増えて何が起きたかと思ったら、紅夢さんの所で紹介していただいていたようです。
ちょっとびっくりしました。COCHA-DO経由なので、紹介していただいていた事にも当初気付きませんでした。
ありがとうございました。
そんなわけでレスなど。
■LRさん
>それを読んで読者(私)はニヤニヤします。
ニヤニヤニヤニヤとさせるというか書いている最中にニヤニヤしている作者が一番危ない気がします。
書いてるところは人には見せられないです。ホント。
■風見鶏さん
>個人的には秋乃サンも大好きです
秋乃は少ない癒し系(死語)キャラとして登場しているのですが、おかげで妹の影が薄くてなりません。
秋乃自体は積極的にお話に絡んでこようとはしない人なのですが、裏設定が色々あったりなかったり。
そして急転直下な続きとなります。
/17
宮川椛は珍しい人物からのメールに戸惑っていた。
ひとまず誘いに応じる返信を短く送り、自分のデスクの上を片付ける。
「では、お先に失礼します」
職員室に残っている同僚達に断って、椛は足早に職場を後にした。
部活から帰ろうという生徒達の集団が幾つかあるだけの中を、椛はパンプスのヒールの音を響かせて歩いていく。数駅離れた場所にある繁華街へ電車で向かい、待ち合わせ場所として指定された改札の前を見回した。週末の繁華街は、予想通り混みあっていた。
「せんぱーい」
先にこちらを見つけてくれたのか、ぴらぴらと手を振っている女性がいた。かっちりとしたスーツ姿で髪もまとめているが、あれは確かに後輩だった柊冬香その人だ。
「冬香。待たせてしまった?」
「いいえー。こっちこそ突然すいませんでした。忙しくなかったですか?」
「忙しければ断っていたわよ」
小さく笑いながらショルダーバッグをかけなおす。
「じゃあ、行きましょうか? お店、決めてるの?」
「あ、ちょっと良いお店知ってるんですよ。こっちです」
先導して歩き出した冬香の隣に並び、椛はちらりと冬香の横顔を観察した。
そもそも冬香が自分に「飲みに行きませんか」などというお誘いを送ってきたのは、再会して初めてのことだった。担任している生徒、柊雪也の保護者として再会した冬香は、雪也が言うように「しっかり仕事の出来る人」なのだろう。ぱっと見には高校時代の彼女の面影を探すのは難しい。化粧をして戦闘準備完了と言わんばかりの格好をして、肩で風を切って歩く姿はキャリアウーマンと呼ぶのが相応しいように思える。
店に着くと冬香は奥まった席を選んで座り込んだ。パーティションが高く、他の席の客の声はほとんど聞こえない。つまるところ、こちらの声も同じだろう。
「それで一体なんの用? 私を呼び出すなんて」
店員に注文を済ませ、椛は改めて冬香を眺めた。つい先刻までの颯爽とした雰囲気は霧消し、ひどく言いづらそうな顔をしている。
「……えーと、ですね」
お待たせしましたー、などと言って店員が入ってきたのに合わせ、冬香が硬直する。
ビールのジョッキを持ち上げて、ひとまず椛は笑って見せた。
「まあ、とりあえずは乾杯しましょうか」
「……そですね」
ガチン、とジョッキを合わせ、口に運ぶ。一口で三分の一ほど飲み干して、互いにジョッキをテーブルに置いた。
「先輩、強いんですか?」
「それなりにね。冬香も強そうね」
「そうでもないんですけどねー。やっぱり仕事の付き合いとかあるんで」
にへら、と笑う冬香は、けれどもすぐにまた渋い顔に戻ってしまった。
「それで? さっさと話しなさい。私が酔う前に」
運ばれてきたつまみをテーブルに並べつつ、椛が促す。その間も、冬香は逡巡し煩悶し続けている。
「……雪也君がどうかしたの?」
「――っ!?」
ガバッと顔を上げた冬香に、椛は「やっぱりね」と呟いた。
そもそも、冬香が誰かに何かを相談するとして、ここで数年会っていなかった自分に相談するような内容がなんなのかを考えれば、答えは簡単なのだ。
冬香個人の私生活や仕事の話ではあるまい。それを話すほど、自分と彼女は親しい付き合いをしてこなかった。というか、再会したのが1ヶ月ほど前だ。なまじ親しくないほうが個人的な話もしやすいのかも知れないが、冬香はそういうタイプではないだろう。
そしてもう一つの可能性は、冬香の義弟であり被保護者である柊雪也の存在だ。
椛は彼の担任であり、下手をすれば冬香よりも長時間、彼と顔を合わせているかも知れない。彼のことで何か相談があるのなら、その相手として自分は最適だろう。
「……で? どうかしたの?」
「えーと……ですね。最近の雪くん、学校でどうしてるかなー……って」
上目遣いで自分を覗っている冬香に、椛は眉根を寄せた。
「そんなの、本人に聞けば良いでしょ。なんでそれを私に聞くの?」
「え、と。いや、それがその、ちょっと聞き辛い状況でして……」
割り箸の入っていた紙袋を折ったり開いたりしながら、冬香がボソボソと答える。それを見て、椛の眉の角度が上がった。
「聞き辛い? あれだけ好き放題言い合ってたのに?」
「いや、それがその、ちょっと今、家庭内が冷戦状態に……」
冷戦状態?と思わず椛は首を傾げてしまった。
原因は、わりと簡単なことだった。雪也がバイトで遅くなる連絡をしなかった事が元々の原因だったのだ。食事を作って待っていた冬香は、事故にでも遭ったのかと心配した分だけ不機嫌になってしまった。
暫くの間、雪也をわざと無視していたら、彼もへそを曲げたらしく必要最低限のことしか喋らなくなってしまった。かれこれ一週間、そんな状況が続いている。
家の中に会話は無く、テレビの音声が虚ろに響いている。
会話が無くなったきっかけが自分の無視にある事はともかく、そもそもの原因は雪也にある事もあって、自分から折れるのは嫌なのだが、このままの状況がよろしくない事も分かっている。どうしたものかと悩んだ末に、椛に相談する事を思いついたのだという。
「バカじゃないの?」
「ううっ」
あきれ果てた顔と声で椛が思わず言い放つと、冬香が泣きそうな顔で俯いてしまった。
「あのね、冬香。あなた幾つだと思ってるのよ。……そんな、子供の喧嘩じゃあるまいし」
冬香は自分の一つ下なのだから、つまるところ2■歳。相手は16歳の少年である。雪也はともかくとして――いや、雪也の対応も多分に子供っぽいものであるが――ここは冬香が大人として受け流すべき所だったはずなのだ。
「で、でもですね! 雪くんが遅れた理由は、バイト先の巨乳の相手をしてたからなんですよ!?」
ピクリ、と椛のコメカミが引き攣った。
「……巨乳?」
「巨乳ですよ! そりゃもう、スイカでも詰めてるのかって感じの!」
冬香がジョッキに残っていたビールを一息に飲み干した。ぐびりぐびり、と喉を通っていく。
「しかも! 仕事中だっていうのに雪くんにベタベタベタベタベタベタして! 雪くんだって鼻の下伸ばしてるんですよ!?」
「……そう」
椛の手がジョッキへと伸びる。
ぐい、と一息に呷り、中身を飲み干したかと思うと勢いよく机に置いた。
「おかわり頼みますねー」
「ええ。お願い」
すいませーん!、と大声で手を振って店員を呼び、冬香がジョッキのお代わりを注文する。
「それで? そのバイト先の巨乳のことを雪也君はなんて言ってるのかしら」
「それが、ただの仕事仲間ですーって。同僚としては好きですけど、別にそれだけですなんて言うんですよ!? 雪くんがそう思っているとしても、あんなベタベタされてて、相手がそれだけの筈ないじゃないですか!!」
新しいジョッキが運ばれてくるや、それを一息に飲み干した冬香は、唖然としている店員にさらにお代わりを注文した。
それを横目に、椛もジョッキを傾けた。
「……付き合ってるって事かしら。あなたには隠してるのかも」
「でも雪くん、日曜とかは家にいるし。デートしてる雰囲気は無いんですよ……」
「バイトって言って、平日にデートしてるのかもよ?」
椛の言葉に、ぐ、と冬香が言葉に詰まる。さらにぽろぽろと涙を零し始めた。
「そんな……雪くんが、私に嘘つくなんて……」
「学生には学生としての、きちんとした生活が必要だわ。一度彼には、きちんと指導したほうが良いかも」
「そう、ですね。私もちゃんと雪くんの保護者として、生活態度には注意しないと」
顔を見合わせた二人はジョッキを飲み干すと、いそいそと席を立った。
† † †
雪也は宿題を片付けながら、時計をちらりと見た。
冬香からはメールで「今日は遅くなる」とだけ連絡があった。もう一度メールの文面を眺め、小さくため息を吐く。
なんでか知らないが、一週間ほど前から冬香の対応が冷たくなった。重要なことは一応は聞いてくれるが、聞くだけでそこから話題が広がることが無い。この一週間、家の中での会話はほとんど無いに等しいだろう。「うん」だとか「分かった」だとか、応答が返ってくるだけなのだ。
最初の頃はどうにか会話をしようと努力してみたが、冬香の機嫌が悪いらしいことに気付いてからは、一旦冷却期間を置いてみようと距離を置いていた。
何かあったのだろうか。それが雪也の悩みだった。
自分には話せない、自分に話しても仕方のない事なのかも知れない。仕事上のトラブルなら、雪也に話したところで意味が無い。
こういう場所で、自分の無力さを実感させられるのだ。
「……なんだかなぁ」
不意に外の階段を騒がしく上ってくる足音がした。
また酔っ払いか、と思っていると、それはさらに家の玄関を激しく叩き出した。
慌ててのぞき穴から外を見れば、そこには機嫌よく笑っている冬香と――さらに宮川椛の姿までもがあったのだった。
「な、何してんですか、二人とも!?」
玄関を開けて、二人を引っ張り込む。
二人はケラケラと笑いながら居間に座り込んだ。
「ああ、もう。なんだってそんな酔っ払ってるんですか!?」
冷水をグラスに注いで、二人に押し付ける。二人はそれを一息に呷り、いやに据わった目で雪也を睨みつけた。
「雪くん、お話があります」
「雪也君。そこにお座りなさい」
二人に言われ、怪訝に思いつつ胡坐をかいて座る。すると、椛の目が光った。
「正座!」
「はいっ」
椛の鋭い叱咤に、思わず飛び上がって正座しなおす。
雪也はダラダラと背中に汗をかきながら、目の前の二人を覗った。
二人とも、アルコールのせいか顔を赤らめている。暑いのか、シャツのボタンが外されていて、胸元がチラチラと見えている。白いシャツブラウスは汗ばんでいるのか、素肌の色が透けて見えた。目を下に下ろせば、短めのタイトスカートからストッキングに包まれた足が伸びている。
「……」
気まずくなり目を逸らす雪也に、今度は冬香の目が光る。
「雪くん。ちゃんとこっち見なさい!」
「は、はぁ……」
渋々と顔を向けなおすと、二人ともが不機嫌そうな顔をしていた。
「何事でしょうか。一体」
帰ってくるなり正座を要求された理由を、雪也は恐る恐る尋ねる。なにせ相手は酔っ払いである。まっとうな答えが返ってくるとは限らない。
「雪くん。おねーちゃんは悲しいの。なんで嘘なんてつくの!?」
「はい?」
「雪也君。アルバイト先での不純異性交遊は認められないわ」
「はいい?」
二人が矢継ぎ早に続けた言葉に、雪也は本格的に頭が痛くなってきた。
曰く、秋乃と自分がアルバイト先で不純異性交遊に耽り、かつバイトと偽ってデートを繰り返している、と。冬香は支離滅裂なことも交えて喋っているが、多分これであっているのだろう。
「……えーと、すいません。それはどこら辺から出てきた話なんでしょうか」
「口答えしない!」
「……はい」
一体どうしろというのか。雪也は心の中で嘆息しつつ、椛と冬香を覗った。
二人とも、段々と支離滅裂になってきている。いや、冬香は元々そうだったが。
「だから! 巨乳なんてあんなの脂肪の塊に過ぎないのよ!」
我が義姉は一体なにを言っているのか。
雪也は諦観にも似た気持ちで、それを聞き流す。
「EとかFとかGとか! 男は夢を見すぎなのよ! あんなの補正下着が無くちゃ、すぐに型崩れしちゃうんだから!」
何か鬱憤でも溜まっていたのか。冬香が当初の話題から外れ始めたのを感じながら、雪也はそれでも「はいはい」と相槌を打っていた。打たないと機嫌が悪くなるからだ。
「これくらいのほうが感度とかも良いんだから! ねえ、先輩!」
「その通りよ。形だって、これくらいのほうが良いんだから」
同意をした椛と冬香が、雪也に誇示するように胸を張ってみせる。
「……そうなんですか」
正直、雪也にはそう答える以外の道は無かった。むしろ正直なことを言えば、早くここから逃げ出したい。
「信じてないでしょ、雪くん」
「……雪也君。先生の言うことが信じられないのかしら?」
あまりに適当な相槌だったせいか、二人がじっとりと雪也を睨みつけていた。
「え? いや、そんな事は無いですけど! というかええと、僕はそういうのはよく知らないんで!」
むう、と二人は唸り、それから互いの顔を見た。
「じゃあ」
「教えてあげるわ」
「――はい?」
じりじりと二人がにじり寄って来るのに、雪也の背筋が凍りついた。
「ちょ、え? なんの冗談!? ゾンビ映画!? いや冬香さん、脱がないで! 椛さんも!?」
立ち上がろうとした雪也の機先を制し、椛と冬香が彼を押しつぶした。
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コメント
酒に飲まれるなんてこの二人、本当に駄目だ。
駄目すぎる、だけどそれが好い。看板に偽り無しですね。でも、最後はニヤニヤからドキドキに…。
そういえば、夏奈との付き合いは#7で小学校時代からと言ってますが。夏奈自身は雪也君の身の上を知らない(#11)のは何故でしょうか?
ただ単に中学校が違っていただけかな?あと、思春期真っ只中で疎遠になったいたのも理由として有りそうですけど。
でも、夏奈以外の東島家の人は知ってそう。で秋乃さんそう言った事情を知っているが故に同情やら、好意やら色々な思いが混ざって抱きしめてしまう。
なんて、裏事情を想像してしまいました。
最後に、椛さんは雪也くんの手にすっぽり収まる位、冬香さんは少し余る位。と、夢見たりしてます。
長文乱文失礼しました。続き楽しみにしてます
投稿 LR | 2008年5月10日 (土) 09時08分
ヒロイン二人、イイ感じに暴走し始めましたねぇw
この勢いで暴走者が更に増えるのか!?
続きを楽しみにしております。
投稿 風見鶏 | 2008年5月11日 (日) 01時46分
楽しく拝読しております。
話が進んで欲しいとような、
モラトリアム感が続いて欲しいような。
投稿 kenp | 2008年5月11日 (日) 15時45分